荘内の旅、羽黒山のつづきです。
羽黒山の山頂に車で向かいます。丘陵といっても構わないほどの低山(414m)で、羽黒山自動車道を通って10分くらいで山頂に到着します。
羽黒山-「生まれ変わりの旅」の入口
羽黒山の山頂には大きな社殿、三神合祭殿がありますが、古くから信仰の中心だったのは社殿の前にある御手洗池です。銅鏡を奉納する習慣があることから鏡池ともよばれています。
![羽黒山三神合祭殿(鶴岡)](http://solo.ao-kurashi.com/wp-content/uploads/2023/08/IMG_1734_01-800x533.jpg)
年間を通じてほとんど水位が変わらない不思議な池で、麓に住む農民にとって貴重な水源だったことから、この池が神霊そのもと考えられ、水神として信仰されてきました。水分神を祭る水源信仰です。
羽黒山がある庄内は日本有数の米どころです。米作に欠かせない水を大切にして、その水源を神として祭ってきたということはよく理解できます。
私が訪ねたときは凍っていましたが、それはそれで神秘的です。
![羽黒山の鐘楼と建治の大鐘(鶴岡)](http://solo.ao-kurashi.com/wp-content/uploads/2023/08/IMG_1738_01-800x533.jpg)
羽黒山は第三十二代・崇峻天皇の第三皇子とされた蜂子皇子の開山と伝えられています。蜂子皇子は聖徳太子と同じ時代(6世紀後半から7世紀前半)を生きた人です。
この頃の書物に修験道の祖といわれる役小角のことが書かれていることから、出羽三山にも山岳修験者がいたと考えられています。
斎館-精進潔斎の食
昼食は斎館で羽黒山伝統の精進料理をいただきます。
斎館は古い寺院だった建物で、明治の神仏分離の際にも取り壊されずに残された唯一の建物です。建物のところどころから修験者が居住した当時の雰囲気を感じます。
![斎館(羽黒山)](http://solo.ao-kurashi.com/wp-content/uploads/2023/08/IMG_2037_01-800x1067.jpg)
これから出羽三山を参拝する人にとって「生まれ変わりの旅」の入口にある羽黒山で、飲食を慎み、不浄や汚れを避けて、心身を清らかにする精進潔斎を行います。このとき振舞われるのが精進料理です。
山で採れる山菜、キノコ、木の実など、出羽の山の恵みをいただきます。
このあたりは山菜の宝庫なんですね。冬の季節に大好きな根曲がり竹(月山筍)を食べることができて幸せです。
![羽黒山斎館(鶴岡)](http://solo.ao-kurashi.com/wp-content/uploads/2023/08/IMG_1744_01-800x1200.jpg)
山の稜線に沿うように長い廊下が設けられています。
その先に小さな部屋がいくつがあり、この一つで食事をいただきました。
出羽三山・羽黒山Q&A
![アオ](http://solo.ao-kurashi.com/wp-content/uploads/2023/06/ao_profile-300x300.jpg)
冬の羽黒山に行って、出羽三山に興味をもったのでQ&Aにしたよ。
- Q出羽三山とはなんですか?
- A
出羽三山とは、山形県北西部にある羽黒山、月山、湯殿山を指します。
古来から山岳信仰の対象とされ、悟りを得るために山にこもって厳しい修行を行う修験道の山です。
江戸時代まで羽黒山は聖観音菩薩、月山は阿弥陀如来、湯殿山は大日如来を本地仏として祭っていましたが、明治時代の神仏分離により、現在の三山は神社として位置づけられています。
現在、羽黒山は倉稲魂命(伊氐波神)、月山は月読命、湯殿山は大山祇命、大己貴命、少彦名命を祭神としています。
月山と湯殿山は積雪が多くて冬に参詣できないため、標高が低く積雪も比較的少ない羽黒山に三山の神を祭る三神合祭殿が設けられています。
- Q『おくのほそ道』で芭蕉が登った山はどれですか?
- A
芭蕉は羽黒山、月山、湯殿山に登りました。
芭蕉は山寺(立石寺)を訪ねた後、最上川を舟で下ります。
河口のまち酒田まで一気に下らず、途中で舟を降りて羽黒山に登ります。旧暦6月3日のことです。
〈涼しさや ほの三か月の羽黒山〉
「夕暮れ、西の空に三日月がかかった。そのもとに羽黒山が黒々と鎮まっている。そんな景色の中にいると、心の中まで涼しくなるようだ。」*
羽黒山で数日を過ごした芭蕉は続いて月山に登ります。旧暦6月8日のことです。
月山の山頂で野宿する芭蕉のうえには半月がかかっています。
〈雲の峰幾つ崩て 月の山〉
「炎天にそびえる雲の峰は太古の昔からいくたび興亡を繰り返してきたのだろうか。夕月夜の月山にると、そんなことが思われる。」*
芭蕉はこの句の前文で「まるで太陽や月が運行する天の入り口(雲の関所)に紛れこむかのような気がするのだ。(日月行道の雲関に入かとあやしまれ)」*と、険しい山道を強力に導かれて歩みを進めた際の心境を記しています。月山で一夜を明かして、太陽が昇るのを待って湯殿山に向かいます。
〈語られぬ 湯殿にぬらす袂かな〉
「他言無用の湯殿山。その感動の涙で濡れたこの袂をご覧ください。」*「湯殿山は中腹にあるお湯を噴き出す赤い巨岩をご神体としており、それが男女の秘部に似ているので、ここで見聞きしたことは昔も今も他言禁止。」*
『おくのほそ道』には出羽三山で詠まれた4つの句(1つは曽良の句)がおさめられています。芭蕉は羽黒山、月山で月を詠んでいます。
俳人の長谷川櫂さん『「奥の細道」をよむ』のエモい解説で芭蕉の句を読むと、芭蕉の心境がリアルに感じられて、さらに興味をそそられます。
鶴岡・酒田に行く(東京からのアクセス)
羽黒山がある鶴岡市は山形県の北西部に位置する街です。
- 羽田空港→飛行機(ANA)→庄内空港→バス→鶴岡駅・酒田駅[1時間40分~]
- 東京駅→上越新幹線→新潟(乗り換え)→羽越本線・急行→鶴岡駅・酒田駅[3時間30分~]
- 新宿駅・東京駅・渋谷駅・池袋駅→高速バス(国際興業バス)→鶴岡駅・酒田駅[7時間30分~]
<参考>
*1.長谷川櫂著『「奥の細道」をよむ』筑摩書房、2007年
*2.瓜生中著『よくわかる山岳信仰』KADOKAWA、令和22年