美術館をめぐる旅、セゾン現代美術館に続いて脇田美術館に向かいます。
脇田美術館の敷地には吉村順三が設計した脇田和アトリエ山荘があります。
これまでシンポジウムとセットで行われていたアトリエ山荘の一般公開が、この秋は見学だけで行われることを知り、建築の専門家たちに混じって、私も念願のアトリエ山荘の見学に参加してきました。
脇田美術館-アトリエ山荘を囲むように建つ美術館
昭和時代のモダニズム建築の巨匠、吉村順三は、大規模な博物館、音楽ホール、ホテルだけでなく、住宅や別荘の設計でも名を馳せました。
軽井沢には彼が手がけた建築も多く、その中には「小さな森の家」軽井沢山荘を含む十数の山荘があります。しかし、現在一般に公開されているのは、脇田美術館のアトリエ山荘だけではないでしょうか。
音楽ホール兼合宿施設として設計されたハーモニーハウスは、カフェとして生まれ変わりましたが、設備老朽化のために2023年現在休業中です。
アトリエ山荘のオーナー脇田和は、戦前から平成時代まで活躍した洋画家で、猪熊弦一郎や小磯良平とともに新制作派協会(現在は新制作協会)を創設した一人です。
後に吉村順三も新制作派協会に参加しています。脇田と吉村はともに1908年に生まれ、東京藝術大学で教鞭をとったという共通点もあります。
脇田は軽井沢に土地を求め、旧知の間柄だった吉村にアトリエの設計を依頼します。
![吉村順三 脇田和アトリエ山荘(軽井沢)](http://solo.ao-kurashi.com/wp-content/uploads/2023/09/IMG_0262_01-800x600.jpg)
1961年の寺田邸をはじめ、すでに軽井沢で住宅を手がけた経験をもつ吉村は軽井沢の土地がもつ特性を熟知していたのでしょう。
湿気が多い軽井沢の気候、さらにここが杉苔が生えた湿地だったことから、ピロティのある二階建になりました。
一階部分は二階床スラブまでコンクリート造とし、広くピロティが占めており、室内空間としては、ボイラー室と作業室が設けられている。木造の二階部分は長さ35mにおよび、庭のコブシの樹を囲うように、「く」の字型をしている。その住居部分には、「平行な壁がない曲がった平面」を考えた。
吉村順三 脇田和アトリエ山荘 1970
![吉村順三 脇田和アトリエ山荘(軽井沢)](http://solo.ao-kurashi.com/wp-content/uploads/2023/09/IMG_0268_01-800x600.jpg)
ピロティから梯子のような小さな階段を上ると玄関があります。
室内には開放的な窓が設けられ、当時は針葉樹の森が一望できたといいます。開け放った窓から外気が流れこみ、窓際に置かれたジョージ・ナカシマのイスに座ると、なんとも心地のよい時間が流れます。
開口部は雨戸、網戸、ガラス戸、障子全てが戸袋に引き込まれて全面開口となり、視界だけでなく風も大きく流れる。また、障子は框と組子の見付けを同じにじている。閉めた際には大きく一枚の面となり、空間の連続性をさらに高めている。
吉村順三 脇田和アトリエ山荘 1970
![](http://solo.ao-kurashi.com/wp-content/uploads/2023/09/IMG_0245_01-800x600.jpg)
壁側に設けられたソファからも外の景色を見わたすことができ、くつろいだ暮らしぶりが想像されます。
![吉村順三 脇田和アトリエ山荘(軽井沢)](http://solo.ao-kurashi.com/wp-content/uploads/2023/09/IMG_0254_01-800x600.jpg)
小降りだった雨が急に激しくなり、2階の窓からしばらく雨を眺めて過ごしました。
降雪が多いためか雨どいが付けられておらず、軒の先から雨だれが滴り、雨音が聞こえてきます。この家なら急な驟雨さえも楽しい彩りだったに違いありません。
軽井沢の美術館をめぐる旅、本日の最後は安東美術館です。
軽井沢を寄り道 旧軽井沢銀座~六本辻
セゾン現代美術館からの帰り、旧軽井沢銀座の入口でバスを降りて、酢重正之でお昼を食べてから、脇田美術館に向かいました。
![酢重正之(軽井沢)](http://solo.ao-kurashi.com/wp-content/uploads/2023/09/IMG_2080_01-800x600.jpg)
遅い夏休みをとっている人も多いのかもしれません。お昼どきは酢重にも行列ができていましたが、隣の蕎麦店はめちゃくちゃ長蛇の列になっていました。びっくり!さすが長野です。中軽井沢でも蕎麦店は行列でした。
![六本辻ラウンドアバウト(軽井沢)](http://solo.ao-kurashi.com/wp-content/uploads/2023/09/IMG_2084_01-800x600.jpg)
軽井沢を自転車でめぐったとき六本辻のラウンドアバウト(環状交差点)を見て、軽井沢らしいハイカラな雰囲気のある場所だなあと思ったので、少し遠まわりをして脇田美術館に向かうことにしました。ここの雰囲気がなぜかとても好きです。
▷自転車が気持ちいい!軽井沢を3時間でめぐる旅(軽井沢)
▷冬のはじまりに中軽井沢を歩く旅(軽井沢)
軽井沢に行く(東京からのアクセス)
JR在来線を使う場合は、横川駅(群馬)でバスに乗り換えます。
- 東京駅→北陸新幹線→軽井沢駅[1時間~1時間20分]
- 池袋駅→高速バス(西武観光バス)→軽井沢駅[約3時間]
- 上野駅→JR高崎線→高崎駅(乗り換え)→JR信越本線→横川駅(乗り換え)→バス(JRバス関東)→軽井沢駅[約3時間]
<参考>
*1.吉村順三著『小さな森の家』建築資料研究社、2011年
1961年寺田邸~1995年喜山邸まで18軒、竣工年がはっきりしない鍵富邸を含め19軒に吉村順三設計事務所が携わったと書かれている。